人とあらゆるサービスを、安全で、便利にコネクトする ビットキー代表取締役社長 江尻祐樹氏

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「Tobira事業」と称し、スマートフォンや専用ボタンで扉の鍵の開閉ができるスマートロックの開発・販売をスタートしたビットキー。一見よくあるIoTサービスに見えて、その先には「鍵」を「権利を実行できる形」と再定義した、「様々なサービスを、安全性を担保してアクセスする」ためのインフラ構想がありました。


―創業までの経緯をお聞かせください。

創業前はワークスアプリケーションズに勤務し、パッケージ導入のコンサルティングや、プロジェクトマネジメントを行っていました。もともと技術者ではありませんでしたが、入社後の研修では経験者を差し置いて最速で突破し、開発を行う上での設計や仮設思考は我ながら素養があったと思います。CEOとともに資金調達のリードも経験するなど、会社の中で働きながら一人スタートアップのような役割をしていました。ビットキーの創業メンバーもこのときの同僚です。

 

―創業前から、技術に興味を持ち、自主的に技術の勉強会を開催されていたとお聞きしました。

技術には個人的に興味を持っていて、トレンド技術を研究したり、エンジニアとプロダクトを作ったりしていました。そういった活動を始めた2012年は、「ディープラーニング」といわれる分野が出てきたころということもあって、研究対象にしていました。オープンソースもライブラリもない中、当時リリースされていた主要なニュースキュレーションアプリをしのぐ精度までサービスを作りこむなど、本格的に活動をしていました。

2017年から注目したのが「ブロックチェーン」。ブロックチェーン技術を活用した仮想通貨が話題になっていましたが、実際どの程度実用的な技術なのかを、自分たちでサービスを作ることで確認しようと取り組み始めました。

サービスを作ってみたことで、ブロックチェーンの強みと弱みが明確になりました。話題になるあまり、AIとの組み合わせでなんでもできると過剰解釈されがちですが、ブロックチェーンはAIの文脈で重要になる大容量データの扱いや、個人情報の取扱いに向いていません。

ブロックチェーンは、ある取引(トランザクション)の記録が書き込まれたブロックと、ブロックをつなぐチェーンで成り立っています。ある個所のデータを改ざんするためには、すべてのチェーンを書き換える必要があり、理論的に不可能であることから、改ざんに強い仕組みといわれています。

ヒストリカルな情報の保持には向いていますが、そのヒストリーの内容自体の正しさは担保できません。ブロックに書き込まれている取引は、ブロックチェーンの外で行われており、取引自体のなりすましは可能です。例えば、「AさんからBさんに1ビットコイン送る」というトランザクションがあったとき、トランザクションが起こったこと自体の改ざんはありませんが、Bさんの財布が別のだれかの財布に書き換わっていたとしても、ブロックチェーン技術でそれを識別することはできないのです。

そこで、このトランザクションの正しさを担保するための仕組みを作ろうと考えました。

今までは、各サービスのログイン認証やID管理をサービス提供各社が独自で開発し、それぞれが管理していました。このIDをデジタル上で生成し、トランザクション層で安全に表現しているのがビットキーの技術です。

 

 ビットキーの思想として、「鍵」を「権利を実行できる形」と再定義しています。家の扉の鍵であれば、その扉に対するアクセス権があるということ。自動車なら、所有権があり、エンジンをかけて利用できる権利があるということ。シェアリングエコノミーであれば、その利用権を一時的に移転しているということです。このように、「誰が、いつ、どういった条件で取引したい」ということを、安全かつ便利な形で成立させることができます。

 このような取引情報が書き込まれた「実行鍵」を、ユーザーが現実世界で使える形で表現しています。その一つの形が、スマートロックです。実行鍵に対する照合鍵穴を先にスマートロック上に設置しておくことで、オフラインで開錠できます。セキュリティの最も強力な状態は、オフラインであることです。オフラインであれば、遠隔でハッキングされることはありません。

 物理的な鍵のいいところは、万が一落としても、どこの鍵か分からないと意味がないという点です。ビットキーで生成した鍵も、本人以外は何に使うか分からないという物理鍵と同じ特性を持っています。

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―なぜ鍵に着目したのですか?

 「鍵」の着想は、当社CCOの寳槻(ほうつき)によるものです。私たちがシェアリングエコノミーサービスのネイティブ世代だったということも影響しています。ワークスアプリケーションズ時代、寳槻がアメリカで仕事をしていた関係で、たびたびアメリカ出張していたのですが、2015年~2017年当時、日本ではほとんど使ったことのある人がいない中、アメリカではAirbnbやUberが全盛期でした。ただ、そういったシェアリングエコノミーサービスは、家やタクシーのマッチングまではオンラインでも、実際本人確認をするには対面のやり取りが必要です。笑い話ですが、「鍵」の発案者の寳槻自身、12月の極寒のニューヨークでAirbnbを利用して宿泊しようとしたところ、家主が大雪で2時間遅れ、鍵の受け渡しができず冬の寒さの中外で待ちぼうけを食らったという体験をしたそうです。Airbnbのように、入口はバーチャルでも、実際に家に泊まる出口はリアルという体験が増えています。Airbnbの場合でいえば「鍵の受け渡し」において、特定の時間に、特定の場所にいなければならないという問題が発生します。その場にいなくても「鍵の受け渡し」ができるプラットフォームを提供したいと考えたのです。

 

―「鍵の受け渡し」のプラットフォームを提供するということですが、現在行っている事業について具体的に教えてください。

「鍵」なので、「扉」に着目し、Tobira事業としてスマートロックの開発や関連サービスの提供に取り組んでいます。扉って、人の数や、スマホの数より多いんです。自宅を思い浮かべてみてください。ワンルームだとしても、数枚ありますよね?これが自宅だけでなく、オフィスや、ホテルも考えると、「鍵」が必要になる扉の数は数えきれないほどです。また、扉は世界中どこも同じ構造なので、エリアの横展開も容易にできます。

既存のスマートロックは、安くても1台15,000円ほど、利用料に月額数万円というのがスタンダードでした。それを、ビットキーでは初期費用無料、個人利用で月額300円~、ビジネス向けでも月額500円~と格安で提供しています。これは、ソフトバンクの孫正義さんがYahoo!BBのモデムを無料で提供した際と同じモデルです。当時モデムが1台5万円ほどで販売されており、ブロードバンド普及率が5%にも満たなかったところ、孫さんのモデムの配布施策により、5年間で2,000万台を普及させることに成功しました。もちろんモデムの配布自体で利益は生まれませんが、それに付帯するインターネットサービスが普及したことで、大きくサービス展開が拡大しました。私たちも、まずはスマートロックを普及させて、「扉を開けるときはビットキー」という世界観を実現したいです。

 スマートロックはシェアリングエコノミーと相性が良く、すでに家事代行サービスとの提携を進めています。他にも、不在時の宅配サービスや、民泊、ベビーシッター、ペットシッターなど住宅だけでも様々なサービスが検討できます。もちろん住宅以外でも、オフィス、ホテル、自動車などに展開できると考えています。このように、スマートロック一つとっても、それに付帯する様々なサービス展開が考えられます。

 

―幅広いサービス展開が期待できそうですね!今後のビジョンを教えてください。

現在は「扉」に着目していますが、モビリティの分野にも取り組みたいと考えています。また、取引が発生するものはすべて適用できる想定なので、行政や、金融の領域にも拡大できると考えています。

「鍵」は、人とサービスをつなぐものです。生活のあらゆる場面にビットキーの技術が介在し、安全で、便利で、気持ちよく「コネクト」する存在になることを目指しています。

 

 

【プロフィール】

株式会社ビットキー 代表取締役社長 江尻 祐樹

https://bitkey.co.jp/

2008年にリンクアンドモチベーショングループに入社、コンサルタント業務に従事。2009年末にワークスアプリケーションズへと移り、1年でMVPを獲得、数百名のコンサルティング・サービス組織を統括するなど頭角を現す。2014年、社長賞を受賞し、数百名程度のコンサルタント・サービス組織の統括も経験する。

本業の傍ら、エンジニアを集めて聞いていたテクノロジーの研究会で2017年末からブロックチェーン研究会を始める。そして2018年8月に株式会社ビットキーを創業、CEOに就任。